廃船から取り外したナットから
指輪ができるまで
ステンレス製の指輪作家として提案したい新たなかたち。
思いを受け継ぐ物づくりの記録。
文:カワベマサヒロ 写真:堂本裕樹
1. 船への思い
「船の部品から指輪を作ろう」
何年も前からそう思っていた。
僕は漁村に生まれ育ち、今でもそこで暮らしている。父方は潜水業、母方は漁業の家系で、兄をはじめ今でも父方の親族の多くは潜水業を、母方の親族の多くは漁業を生業としている。僕にとって海で働く人達は憧れの対象であり、僕自身、海のことに関わるのが好きだ。生活のすぐそばに海があり、今でも指輪製作の合間、気分転換によく海を見る。港を見ることも多い。
港にはたくさんの船がある。どの船も格好良い。漁船も釣り船も、船外機付きの小舟も。船には海で働く人達の誇りが詰まっている。持ち主を変えながら、何代にも渡って受け継がれていく船も多い。家業を支え、地元の産業や文化を支えている屋台骨。港に停泊する船から、そういった力強さを僕は感じている。
船には海水や潮風による錆や腐食を避けるために、ステンレス製の部品が多く使われている。自然相手の厳しい環境や強い負荷にも耐えられるように、各部品は充分な厚みを持ち、がっしりとした大きなネジで固定されている。
ステンレス製のボルトとナット。
重厚なステンレス部品。
海への尊敬と憧れ。
ステンレス製の工業部品から指輪を作っている僕が、指輪の材料として船の部品に心惹かれるのは、自然の成り行きだったように思う。
船は新造すれば、修繕を重ねながら、40年も50年も使い続けることができる。その間、親から子へ、そして子から孫へと受け継がれることも多い。
そうやって長年にわたって受け継がれてきた船にも、やがて役目を終える時がやってくる。老朽化して廃船になるものもあれば、後継者がいなくて、しばらく放置された後に処分される船もある。
ただ、どんな場合でも船を処分する際には、寂しさが胸をよぎるに違いない。懐かしい記憶とともに、船主には船主としての想いがあり、またその家族には家族としての船への想いがある。
そういう想いを汲み取りながら、その船に使われていた部品から指輪を削り出す。単なる素材の「再利用」や「有効活用」といったリサイクル精神ではなく、船への想いを受け継ぐものとして、船の部品で指輪を作ってみたい。
船に込められた想いは、その素材の一部が形を変えて、指輪として残り続ける。ステンレスという、朽ち果てることのない素材として、世代を超えて受け継ぐことが出来る。そういう物を作りたい。その思いは、ここ数年で次第に大きくなっていた。
(つづく)